今回は、先回までに紹介したO-Y・PSMを含む種々のすべり試験機について、その妥当性を比較してみましょう。
床のすべりを測定できると称する試験機は、世界中に100種以上存在するといわれています。そのいくつかの例を、図1に示します。
(a)はヨーロッパの規格EN13893で採用されている試験機で、3個の"スライダー"(2つは革製,1つはゴム製)が付いた板を床上で水平方向に引っ張ったときの荷重を測定し、動摩擦係数μを求めるものです。
(b)はアメリカの規格ASTM D 2047で採用されている試験機(通称"James Machine")で、床試験体とすべり片(革製)を図中左手前側に徐々にずらしてゆき、すべり片が床試験体上ですべって重錘と鉛直コラムが下に落ちたときの鉛直コラムとストラットの角度から静止摩擦係数を求めるものです。
(c)は、後述の(d)が規定される前にJIS A 1407に規定された試験機で、先端にすべり片(ステンレス製)が付いた振り子を所定の角度から振り下ろし、試験機下部にセットした床試験体上ですべり片がすべった後振り子が振り上がる角度から、すべり抵抗係数Uを求めるものです。
(d)は先回までに紹介したO-Y・PSMで、JIS A 1454や日本建築学会「床性能評価指針」で採用されているものです。O-Y・PSMでは、すべり抵抗係数C.S.R(Coefficient of Slip Resistance)が求められます。
(a)水平引っ張り型すべり試験機の例(EN 13893:2002)
(b)方杖型すべり試験機の例(ASTM D 2047-93)
(c)振子型すべり試験機の例(JIS A 1407-1963)
(d)斜め引っ張り型すべり試験機の例(JIS A 1454:1998)
図1 すべり試験機の例
各試験機の妥当性は、以下の方法で比較しました。はじめに、すべりの程度が異なる十数種の試料床を用い、先回紹介した官能検査を実施して、どの試料床がどの程度すべりやすい/すべりにくいかを定量的に表す"すべり感覚尺度"を構成しました。つぎに、各試験機で各試料床の摩擦係数あるいはすべり抵抗係数を測定し、すべり感覚尺度との関係を比較しました。
結果を図2に示します。左上の図はすべり感覚尺度とEN13893で測定された動摩擦係数μとの関係、右上はASTM D 2047で測定された静止摩擦係数との関係、左下はJIS A 1407で測定されたすべり抵抗係数Uとの関係、右下はJIS A 1454で測定されたすべり抵抗係数C.S.Rとの関係を表します。右下の図以外、すべり感覚尺度と摩擦係数あるいはすべり抵抗係数は対応しているとはいえず、これらの試験機では、人間がすべると感じる床をすべると、すべらないと感じる床をすべらないと、正しく判定できないことがわかります。
一方、右下の図ではすべり感覚尺度とC.S.Rはよい対応を示しており、人間が感じるすべりの程度をC.S.Rで表示できていることがわかります。このように、人間のすべり感覚との対応の観点から妥当性が証明されている試験機は、筆者の知る限りO-Y・PSMのみとなっています。
図2 各種すべり試験機の妥当性の比較