すべり試験機O-Y・PSMの妥当性
2019年07月29日 横山 裕(東工大教授)
今回は、先回紹介したすべり試験機O-Y・PSMの妥当性について、データを用いて説明しましょう。
図1に、O-Y・PSMでの測定結果の例を示します。図は、靴底を切り取ったすべり片を床上に載せ、所定の鉛直荷重80kgfを載荷したうえで斜め上方18°の方向に引っ張ったときに得られた、引張荷重・時間曲線です。
図に示すように、荷重は引っ張りはじめた時点から徐々に増加し、やがてすべり片が床上ですべった時点で最大値Pmaxに達し、以降減少してゆきます。
このPmax(単位:kgf)を鉛直荷重80kgfで除したすべり抵抗係数C.S.Rが、人間のすべり感覚と対応することが明らかとなっています。
C.S.R=Pmax/80
図1 O-Y・PSMによる測定結果の例
人間のすべり感覚は、精神測定法の分野で確立された官能検査手法を用いて定量化しました。写真に、官能検査のイメージを示します。
写真のように、すべりの程度が異なる十数種の試料床上を歩いてもらい、各試料床のすべりについて、以下の①〜⑦の7段階の判断範ちゅうにしたがって回答を求めました。
⑦非常にすべらない
⑥かなりすべらない
⑤ややすべらない
④どちらともいえない
③ややすべる
②かなりすべる
①非常にすべる
検査の際の履物はくつ下、スリッパ、硬底靴の3種とし、硬底靴の場合は床上に泥水を散布した場合の検査も実施しました。
ただし、写真はあくまでもイメージで、実際の検査は1人1人別々に実施します。
写真 官能検査状況(イメージ)
図2に、官能検査結果を統計的に処理して構成された、人間が感じるすべり具合を定量的に表す"すべり感覚尺度"と、O-Y・PSMで測定された各試料床のC.S.Rの関係を示します。
図には、1つの試料床で得られた結果が、1つの点で示されています。図より、いずれの履物でも、また清掃状態でも泥水散布状態でも、官能検査の結果すべると判断された試料床のC.S.Rは小さく、すべらないと判断された試料床のC.S.Rは大きくなっており、両者はよい対応を示していることがわかります。
すなわち、C.S.Rが、人間が感じるすべり具合を表す物理量として妥当であることがわかります。
図2 すべり感覚尺度とC.S.Rの関係